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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)1757号 判決 2000年6月09日

原告

垣内茂

被告

清水孝夫

主文

一  被告は、原告に対し、金三五九万六四九八円及びこれに対する平成八年九月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一八五三万一三四四円及びこれに対する平成八年九月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1(本件事故)

(一)  日時 平成八年九月二〇日午後九時一五分ころ

(二)  場所 大阪府八尾市山本町一丁目七番先路上

(三)  加害車両 被告運転の普通乗用自動車(大阪七七せ三三二九)

(四)  被害車両 原告運転の足踏式自転車

(五)  態様 出合頭衝突

2(責任)

自動車損害賠償保障法三条

3(傷害、治療経過)

(一)  傷害

頸髄不全損傷、外傷性胸郭出口症候群、椎骨動脈不全

(二)  治療経過

(1) 東朋八尾病院

平成八年九月二〇日から同月二九日まで入院一〇日間

(2) 寺元記念病院

平成八年一〇月九日から同一六日まで通院(実通院日数八日)

平成八年一〇月一七日から平成九年三月二二日まで入院一五七日間

平成九年三月二六日から同年六月一六日まで通院(実通院日数四五日)

平成九年六月一六日から同月一八日まで入院三日間

平成九年六月一九日から平成一〇年一月三一日まで通院(実通院日数一〇七日)

4(損害填補)(六六〇万八六九九円)

(一)  治療費 三七万七九四〇円

(二)  装具代 九九七六円

(三)  原告に対する支払 六二二万〇七八三円

二  争点

1  外傷性胸郭出口症候群、椎骨動脈不全と本件事故との因果関係の有無

2  症状固定時期

(一) 原告 平成一〇年一月三一日

(二) 被告 平成九年八月末ころ

3  後遺障害

原告は、本件事故により左上肢冷感、左上下肢筋力低下、歩行中に意識が薄れる等の症状が残存し、右後遺障害は、自賠責後遺障害等級表の一四級を下回ることはない。

4  損害

(一) 治療費 三八万七九一六円(原告負担分)

(二) 付添看護費 九四万二五〇〇円

入院付添 一日五五〇〇円、一六七日

通院付添 一日三〇〇〇円、八日

(三) 入院雑費 二二万一〇〇〇円

1300円×170日

(四) 通院交通費 八万五二八〇円

(五) 休業損害 七四三万三六三九円

(1) 給与分 六一五万一四三九円

本件事故前三か月間の給与日額平均一万五五九三円

(争いがない。)

休業期間 三九四・五日

(2) 賞与減額分 一二八万二二〇〇円

(六) 逸失利益 四六六万一〇〇九円

基礎年収 五六九万一四四五円

労働能力喪失率 五パーセント

就労可能年数 二六年(新ホフマン係数一六・三七九)

569万1445円×0.05×16.379

(七) 昇給遅延による逸失利益 五八万〇八八一円

原告は、本件事故による長期欠勤のため、昇格が二年間停止され、また、考課が低下した。

今後とも二年間の昇格遅延が継続し、原告が定年までの間に得べかりし給与、賞与額及び定年時における退職金の額に一定の開きが生じることは確実である。

(1) 賃金差額 五二万五〇三八円

平成九年度において七万二〇〇〇円、平成一〇年度において三万六〇〇〇円の差が生じている。

今後四年間にわたり差が生じ続ける。

(2) 賞与差額 五万五八四三円

(3) 退職金差額

本件事故がなければ得べかりし退職金額と現実に得る退職金額との差が出ることが推定されるが、不確定的要素が多いため、慰謝料の算定に当たって考慮されるべきである。

(八) 慰謝料 四〇〇万円

(九) 弁護士費用 一七〇万円

5  過失相殺

(一) 本件事故現場は、中央線の標示のない東西道路(幅員約六メートル)と同じく中央線の標示のない南北道路(幅員約六メートル)とが交差する交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)であり、東西道路には一時停止規制がなされている。

(二) 本件交差点は、民家等の建物の影響で、東西方向、南北方向とも左右の見通しが悪い。

(三) 被告は、加害車両を運転して、東西道路を西から東に向かい時速約二〇キロメートルで進行し、本件交差点手前に標示された一時停止線の約六メートル西側において、減速し、右停止線付近で南北道路上に被害車両を発見したが、これより先に本件交差点を通過できると判断し、時速一〇ないし一五キロメートルでそのまま直進進行して本件交差点に進入した。

(四) 原告は、左手で傘を差し、前照灯を点灯せず、被害車両を運転し、南北道路を北から南に向かい時速約二〇キロメートルで進行して、本件交差点に差し掛かった。

(五) 被害車両は制動措置が損傷していた。

(六) したがって、少なくとも三割の過失相殺をすべきである。

6  素因減額

第三判断

一  争点1(外傷性胸郭出口症候群、椎骨動脈不全と本件事故との因果関係の有無)

証拠(甲三の1ないし3、七、乙一の1、2、二の1、2、三、六)によれば、原告が外傷性出口症候群、椎骨動脈不全の傷害を負い、前記入通院治療の経過において、右傷害が本件事故とは別の原因で発症したことを窺わせる事情は見出せず、また、本件事故との間の因果関係を否定すべき事情も見出せないから、右傷害と本件事故との因果関係は認められる。

二  争点2(症状固定時期)

前掲証拠によれば、原告の担当医師は、平成九年八月末ころ症状固定との診断をしてもよい旨考えていたことが認められるところであるが、実際には、平成一〇年一月三一日まで治療は継続され、その間の治療が効を奏していないとはいえないから、原告の傷害は右治療終了時点である平成一〇年一月三一日に症状固定したものと認めるべきである。

三  争点3(後遺障害)

証拠(甲三、原告本人)によれば、原告には、症状固定後、左上肢冷感、左上下肢筋力低下、歩行中に意識が薄れる等の症状が残存していることが認められるが、左上下肢の筋力低下についてはその程度は軽いものであり、その他の症状は自覚症状のみというべきであるから、損害賠償算定のための後遺障害が残ったとまでは認められない。

四  争点4(損害)

1  治療費 三八万七九一六円(原告負担分)

証拠(甲四の1、2、弁論の全趣旨)により認められる。

ほかに、被告側で支払った治療費が三七万七九四〇円がある(争いのない事実4(一))。

2  付添看護費

原告の入通院治療期間中において、原告に付添看護を要する旨の医師の診断はなく、原告の本件事故による傷害の部位、程度からすると、付添看護を要するものとまでは認められない。

3  入院雑費 二二万一〇〇〇円

1300円×170日

4  通院交通費 八万五二八〇円(弁論の全趣旨)

5  休業損害 七四三万三六三九円

(一) 給与分 六一五万一四三九円

証拠(甲五の1ないし17、原告本人)により認められる。

(二) 賞与減額分 一二八万二二〇〇円

証拠(甲六の1ないし3)により認められる。

6  逸失利益

原告に後遺障害が認められないことは前記認定のとおりであり、また、本件事故後原告の後遺障害による減収も認められないから、逸失利益の主張は理由がない。

7  昇給遅延による逸失利益

証拠(甲八、九)によれば、原告の勤務する会社(株式会社かね治係長)における昇格について、原告が本件事故による欠勤のために不利に扱われていることが窺われるが、昇格は勤務成績の評価が成されたうえでなされるものであり、本件事故がなければ必ず昇格が実施されたかについては不確実な点も存するから、右の点については慰謝料算定の際に考慮することとし、昇給遅延による逸失利益としては算定しない。

8  慰謝料 二五〇万円

原告の傷害の部位、程度、入通院状況等諸般の事情を考慮すると、本件事故による原告の慰謝料は、二五〇万円と認めるのが相当である。

9  以上を合計すると、一一〇〇万五七七五円となる。

五  争点5(過失相殺)

証拠(甲一、二、原告本人、被告本人、弁論の全趣旨)によれば、原告は、本件事故当時、降雨のための左手に傘を差して被害車両を運転していたこと、交差道路から進行してくる車両の動静に対する注意が不足していたことが認められるから、本件事故が被告の一時停止義務違反及び交差道路から進行してくる被害車両を認識していながら加害車両が先に本件交差点を通過しうると判断したことの過失を主たる原因として発生したことも考慮すると、前記損害額からその一割を過失相殺するのが相当である。

そこで、前記損害額からその一割を控除すると、九九〇万五一九七円となる。

六  争点6(素因減額)

前掲証拠からすると、原告の治療期間は比較的長期間にわたっているとはいえるが、それについて原告の身体的あるいは心因的理由が影響を与えていることを認めるに足りる証拠はない。

七  損害填補(六六〇万八六九九円)

前記九九〇万五一九七円から支払済みの六六〇万八六九九円を控除すると、三二九万六四九八円となる。

八  弁護士費用 三〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は三〇万円と認めるのが相当である。

九  よって、原告の請求は、三五九万六四九八円及びこれに対する本件事故の日である平成八年九月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 吉波佳希)

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